今回の患者様⑦さんは83歳男性の方で、他院で約3か月前に進行胃癌と多発肝転移の診断を受けるも、アルツハイマー型認知症があり、手術や抗癌剤治療は困難と判断されました。そのためその主治医から在宅緩和治療を勧められ、当院にご家族が紹介状をお持ちになり受診。その場でご家族に、今後食事が摂れなくなったとしても、点滴など行うと胸水や腹水が貯まり本人を苦しめる可能性があるため行わないこと、痛みが出てきた際にはモルヒネなどを使用して、積極的に苦痛症状をとっていくこと、基本的には自宅で看取りまで行うことなどを説明し、ご家族から同意が得られたため数日後より自宅への訪問診療を開始。訪問診療開始当初は、特に腹痛や吐き気などもなく、ご自宅で趣味の盆栽などをいじりながら、穏やかに過ごされていました。訪問診療開始約1か月後から、右の脇腹付近の鈍痛と吐き気の訴えが出現。そのため一般的な痛み止めと吐き気止めなどで経過観察。最初の1週間くらいは症状がやや改善していたものの、その後再び症状の悪化があり。そのためご家族とご本人に症状を改善させるために、モルヒネとステロイドホルモンという薬剤を使用する旨説明。それらの薬剤の副作用の説明も行い処方を開始。その後強い副作用もなく、吐き気や痛みも改善し、再び楽そうに生活できるようになりました。しかし癌の進行と共に、だんだん食事が摂れなくなり、体重や筋力も低下していき、数週間後には介護ベッド上でほぼ寝たきりの状態となってしまいました。そのため好きなことができなくなり、日中寝てしまい夜眠れないような生活が数日続いていました。するとある日、急にご本人が家の外に泥棒がいて家に入ろうとしている、という幻覚が見え始め、杖で窓を壊してしまったり、家族を杖で叩こうとしたりという終末期せん妄という状態となってしまいました。それに対し、夜間深く眠ることでせん妄を改善させるような内服薬を処方してみるも、毒を飲まされていると被害妄想なども出現し、内服薬をすべて拒否されてしまいました。注射剤などもすべて拒否され、ご家族は自宅で最期まで介護をしたかったが、混乱している父親をこれ以上みるのも辛いとのこと。当院の在宅でできる治療としても限界と考え、総合病院の緩和ケア病棟に入院を依頼。その後入院され、緩和ケア専門医や専門看護師による治療やケアにより、元の穏やかな状態となり、最期はご家族が付き添われて、緩和ケア病棟で最期を迎えられました。