今回の患者様⑥さんは50歳男性の方で、約6か月前に他院で膵臓癌の診断となり、その後同院で抗癌剤治療を開始。約5か月の間、抗癌剤治療を受けてきましたが治療効果が乏しく、体力的にも抗癌剤の継続が困難となりました。⑥さんは、治療ができなくなった際には、自宅で緩和治療を受けながらの療養を希望する旨を主治医に以前から伝えていました。そのため主治医より、当院訪問診療による在宅緩和治療を勧められ、数日後当院に紹介受診。外来でご本人とご家族に、点滴を行うと膵臓癌の場合、腹水が貯まりご本人を苦しめることになるため基本的に行わないこと、痛みが出現した場合にはモルヒネなどを使用してできるだけ苦痛をとる治療を行うこと、などの説明を行い数日後より自宅への訪問診療と訪問看護を開始。訪問診療開始当初は、前医からの一般的な痛み止めの内服のみで、大きな苦痛なく過ごせていました。しかし約2週間後には、背中からみぞおち付近の痛みが強くなってきたため、モルヒネ製剤の内服薬の併用を開始。その後症状を見ながら1週間毎にモルヒネ製剤を増量していくも、十分痛みをとることができないため、ご本人と相談しモルヒネの持続皮下注射を開始。モルヒネの持続皮下注射は専用の機器を使用すると、24時間少量ずつ皮下にモルヒネが投与されることで、強い鎮痛効果が得られます。また痛みが出た時に、ご自身でボタンを 押すことにより、1時間で投与される量のモルヒネが早送りされて、突然起こる痛みに対しても、速やかに対応が可能となります。この機器によるモルヒネの使用により、数週間はそれほど苦痛なく、ご自宅で療養を継続されていました。しかし次第に痛みの増強と共に使用するモルヒネの量も増え、モルヒネの副作用である眠気も強くなり、ベッドで横になる時間も増えていきました。奥さんが仕事をしながら介護もされていましたが、仕事を休むことができず、ご本人も痛みと眠気により、希望されていたような自宅療養ができない状況となりました。また当院訪問診療で行える在宅緩和治療では、希望されている在宅療養の継続は限界と考え、ご本人とご家族と相談し、総合病院緩和ケア病棟への入院を依頼。その後緩和ケア病棟入院での専門的な緩和ケアを受けながら、入院での療養継続となりました。