今回の仮想患者様pさんは60歳の女性の方で、以前から乳房にしこりが触れているのを自覚していましたが、検査や診察を受けるのが恥ずかしいという理由で、病院には行きませんでした。その後そのしこりがだんだん大きくなってきているのも自覚していましたが、やはり受診せず、様子を見ていました。ある日、ゴルフボール位の大きさになった乳房の腫瘍付近から、粘液が出ていて下着が汚れているのに気づきました。そのため鏡で自分の乳房を確認したところ、乳房の皮膚の一部が変色し、その付近から腫瘍の一部が皮膚の外に出ていました。pさんは乳癌だろうということは気づいていましたが、やはり検査や診察を受けるのに抵抗があり、乳癌で命を落としてもいいと考えるようになってしまいました。その後も乳房の腫瘍から出る粘液の量は増えていきましたが、さらしなどを巻きながら様子を見ていました。しかしある日、さらにテニスボールくらいに大きくなった乳房腫瘍の外に出ている部分から、頻回に出血するようになったことと、粘液も悪臭を伴いこれ以上周りの人や家族に隠しておくことはできないと考え、ようやく病院に受診しました。病院での精密検査の結果、乳癌が胸の筋肉まで達していて、肺や全身の骨にも何か所も転移している状況でした。転移はしていましたが、乳癌からの出血を止めるためには、乳房を筋肉ごと切除しなくてはならず大手術とな りました。手術後、抗癌剤の投与も開始しましたが、肺や骨の転移は小さくならず、咳が段々止まらなくなり、転移している骨の部分の痛みも通常の痛み止めの内服では改善しなくなりました。そのため緩和ケアを勧められ、抗癌剤治療を受けながら緩和ケア外来にも通院。その後体力的に通院が困難となり、抗癌剤治療は中止。緩和ケア外来の通院継続も困難となり、当院に訪問診療による在宅緩和ケアの依頼があり。数日後より開始。すでに咳止めや一般的な痛み止め、モルヒネ製剤などは緩和ケア外来より処方されていましたが、それでも十分咳や痛みが改善しないとのことで、モルヒネ製剤などを徐々に増量。しかし痛みや咳が十分とれず、不安や不眠も強くなり、在宅での緩和治療では限界と判断し、緩和ケア病棟への入院を依頼。約1週間後入院となり、その後専門的な緩和治療と精神的なケアも行われながら入院治療が継続されましたが、約2週間後入院中に永眠されたとのことでした。