今回の仮想患者様iさんは56歳の男性の方で、高血圧にて定期的に家の近くの診療所に数年前から通院していました。奥様を早くに亡くし、お子様もいらっしゃらず、仕事をしながら一人暮らしをされていました。約1か月前からお腹に違和感を感じていましたが、特に吐き気や便秘などもなかったため様子をみていました。数日前から突然頻回の嘔吐と腹痛が出現したため、翌日近くの診療所に受診。お腹のレントゲン検査の結果、腸閉塞が疑われたため、総合病院に紹介され受診。精密検査と治療の目的にて入院となりました。入院で腸閉塞の治療を行いながら、胃カメラや大腸カメラ、CT検査を実施。その結果、小腸の腫瘍が疑われたため、数日後小腸カメラを実施したところ、小腸がんの診断となりました。約1週間後手術を受け、その手術で摘出した病変の検査結果から、リンパ節や他臓器へ転移している可能性が高いという結果が出ました。そのため手術後、抗がん剤治療をする方針となりました。iさんは、できる限り仕事を続けながら、外来通院にて抗がん剤治療をしたいという希望であったため、主治医と職場の上司に相談。仕事は職場からサポートしてもらえることになり、外来通院にて抗がん剤治療を続けていきました。しかし手術をして約1年後に撮影したCT検査にて、お腹の中のリンパ節が腫れていて、腹水も少量認めることから再発が強く疑われました。そのため、その後は違う薬剤での抗がん剤治療を行いながら経過をみて いきましたが、治療効果に乏しく、これ以上の抗癌剤治療は難しいという判断となりました。主治医より余命は約1年という説明を受け、仕事を続けるのは難しく、通院も辛くなってきたため、主治医より当院での在宅緩和治療を勧められ、当院に後日紹介され受診。数日後よりご自宅への訪問診療と訪問看護を開始しました。一人暮らしで日常生活での援助が必要であったため、介護保険を申請。訪問介護も導入し、入浴や食事、部屋の掃除などをサポート。またモルヒネなどの内服薬の飲み忘れが多かったことから、訪問薬剤師も導入し、自宅への薬剤の配達及び服薬管理を依頼しました。そのように約10か月間、ご自宅で何とか療養されてきましたが、食事や水分の摂取が困難となり始め、常に介護が必要な状態となったため、自宅で独居での療養は限界と判断。入院で緩和治療を行ってくれる病院へ紹介し入院。その約1か月後に入院先の病院にて、静かに病棟スタッフに見守られながら息を引き取られたとのことでした。