今回の仮想患者様jさんは53歳の女性の方で、夫と20代の息子2人を持つ主婦の方です。約2年前に進行大腸癌の診断に対し手術を受け、その後外来での抗癌剤治療のため、総合病院に通院を続けていました。抗癌剤の副作用もそれほどなかったため、自宅で家事をしながら治療を続けることができていました。約1年前に再発の有無をチェックするため、CT検査を実施したところ、両肺に数個転移が見つかり、大腸癌の再発と診断されました。そのため違う種類の抗癌剤治療が開始となり、約半年間外来通院での治療が続きました。抗癌剤の種類が変わった頃から、手足の痺れが見られるようになり、家事や通院もやや困難となってきたため、家族がそれらを手伝うようになっていました。その後再びCT検査を実施したところ、数個の肺転移は大きくなっていて、胸水の貯留も認めるようになり、更に違う抗癌剤の投与が開始されました。その頃から胸水が貯まっているあたりに痛みも感じるようになり、定期的な痛み止めの内服も開始となりました。新しい抗癌剤投与を繰り返すも効果に乏しく、肺転移の増大及び胸水の増加に伴い、痛みの増強と呼吸苦のため通院していた総合病院に入院。モルヒネ製剤と酸素の投与が開始され、食事を摂ることも困難となったため、高カロリー輸液も24時間での投与が開始されました。ある程度それらの治療で症状の緩和が得られるも、これ以上の抗癌剤治療は困難と判断され、緩和ケア病棟に転床して入院緩和医療を継続するか、自宅での在宅緩和医療にするか、本人と主治医、家族で話し合いました。その結果、本人の意志を尊重し、自宅での療養を選択されたため、当院に在宅緩和医療の依頼があり、自宅に電動ベッドや在宅酸素装置、高カロリー輸液ポンプ、ポータブルトイレなどを準備し、数日後自宅退院となりました。その後訪問診療と訪問看護にて、約1か月間は家族の介護を受けながら自宅療養ができていました。しかし次第にベッドから起き上がることも困難となり、介護者が男性ばかりで入浴や排泄の介護が困難であること、日中介護者全員が仕事で不在になる時間帯もあるため、訪問薬剤師や訪問介護士も導入。様々なサービスを利用しながら自宅での療養を続けるも、癌性疼痛と呼吸苦が次第に強くなり、ご本人とご家族と話し合った結果、注射剤でのモルヒネの持続投与を開始。その後それらの症状は緩和されるも、全身状態の悪化が進み、家族も休暇を取り介護を続け、約1週間後に家族に見守られながら自宅で静かに息を引き取られました。