今回の仮想患者様gさんは、83歳の男性の方で、75歳の時に脳梗塞を発症し、脳血管性認知症と右半身麻痺の後遺症のため、自宅で家族の介護を受けながら、ベッド上か車椅子での生活をされてきた方です。80歳になった頃から、車いすに乗ることも困難となり、ベッド上でほぼ寝たきりの状態となっていました。そのため通院も困難となり、それまで通院していた脳神経外科の先生から、自宅への訪問診療の依頼が当院にあり、定期的な訪問診療と訪問看護を開始。その後約3年間は大きな変化もなく、前医の脳神経外科からの薬を継続処方しながら経過観察としておりました。83歳時のある日、訪問看護師から尿の色がオレンジ色で、目の白目部分が黄色いような感じがするとのことで、往診を実施。診察上、いつもより皮膚も黄色く、黄疸が出ていることが疑われたため、自宅で採血検査と腹部超音波検査を実施。採血上、以前は見られなかった肝機能障害や胆道系酵素の上昇がみられ、腹部超音波検査では、胆嚢腫瘍と肝内胆管の拡張を認めました。以上から、胆嚢癌による閉塞性黄疸が強く疑われ、ご本人は認知症のため、ご家族に総合病院で精密検査を受けるか相談。ご家族は認知症や半身麻痺もあり、現在寝たきり状態であることから、積極的な精密検査や治療は希望せず、このまま自宅での緩和治療を希望。引き続き自宅での緩和治療のため訪問診療を継続。その後発熱が見られるようになり、右脇腹辺りを押すと苦痛表情があることから、解熱鎮痛剤の内服を開始。発熱や苦痛表情は改善したものの、次第に食事の摂取量が減っていき、飲み込む力も落ちてきたため、鎮痛剤の内服をモルヒネの貼り薬に変更し、発熱時には座薬の解熱剤で対応。約2週間それらの対応で、大きな苦痛はなさそうな状態で経過するも、食事や水分がさらに摂れなくなったため、ご家族から点滴するのはどうかという相談があり。ご家族には現在の状態で点滴を行うと、点滴からの水分がお腹の中に炎症があるためお腹にたまり腹水となって本人が苦しくなること、点滴から水分が入ることでそれが胸水や痰が増える原因となり、痰が絡んでも自分で出す体力がないため、呼吸が苦しくなることなどを説明。ご家族に点滴をしない方がご本人の苦痛が少ないことを理解して頂き、そのまま在宅緩和治療を継続。数日後、ご家族に見守られながら、ご自宅で静かに息を引き取られました。