今回の仮想患者様fさんは58歳の男性の方で、若い頃からお酒が大好きで、毎晩ビールや日本酒、ウイスキーなどを欠かさず飲んでいました。仕事が休みの日には、日中からお酒を飲んでいるようなこともよくあったそうです。若い頃から職場の健康診断でも、毎回肝機能障害を指摘され、病院での精密検査と治療を勧められていましたが、放置して病院に行くことはありませんでした。55歳になった頃、何故か身体がすごくだるくなり、足のむくみが見られるようになりました。またお腹の張りや食欲の低下も感じるようになり、好きだったお酒の量も減っていきました。そのため奥さんに付き添われて、ある日当院を受診され、採血検査や腹部超音波検査、胃カメラを実施。その結果、アルコール性肝硬変と食道静脈瘤が認められました。そのため総合病院での治療が必要と判断し紹介。総合病院の消化器内科では、まず食道静脈瘤の治療を入院で行い、静脈瘤から出血するのを予防しました。その後飲酒をやめるよう指導され、奥さんが自宅のお酒を全て処分。しかし本人は隠れてコンビニなどでお酒を買って飲んでしまうような状態でした。そのためアルコール依存症と判断され、精神科での断酒治療も実施。その後飲酒はやめることができたものの、57歳時の定期検査にて小さな肝臓癌が数個見つかりました。肝硬変による肝機能低下のため手術は困難と判断され、肝臓に針を刺して肝臓癌を焼く治療を続けていきました。しかし58歳時には、肝硬変による肝機能の低下が著しく、黄疸や軽い意識障害を起こす肝性脳症なども見られ、お腹に水がたまる腹水も減らすことが難しくなりました。肝臓癌もこれ以上の治療は困難と判断され、通院も難しくなったため、当院に自宅での緩和治療の依頼があり、訪問診療及び訪問看護を開始。fさんの最もつらい症状は、腹水によるお腹の張りでした。その症状のため呼吸苦があり、食事も十分食べられないため、身体にたまった水分を尿として外に出す利尿剤の増量を開始。その後腹水は少しずつ減ってきたものの、次第に黄疸の悪化が見られ、肝不全という著しい肝機能の低下した状態となりました。その後意識ももうろうとなり、食事や水分、薬も飲み込むことが難しくなり、ご家族に数日以内には息を引き取られる可能性が高い旨を説明し、ご自宅での看取りを希望されたためそのまま経過観察。その数日後、ご家族に見守られながら、ご自宅で静かに永眠されました。