今回の仮想患者様Uさんは85歳の男性の方で、50代の頃から糖尿病と診断され内服治療を受けてきましたが、食事制限が十分できておらず飲酒も毎日されていて、糖尿病のコントロールは以前から悪かったとのことでした。これまで市内の病院へ定期的に通院していましたが、70代になると腎臓の機能が徐々に悪くなってきていると主治医から指摘されていました。80歳になった頃にはさらに腎臓の機能が悪化してきているため、主治医から人工透析を勧められていました。しかしUさんは、特に調子が悪いということもないため、透析はまだしなくていいと拒否されていました。1年前位から、体のだるさや息切れ、下肢のむくみなどを自覚するようになってきましたが、やはり透析は希望されませんでした。そのためUさんと主治医、御家族で今後の治療方針について話し合った結果、Uさんは例え寿命が縮んだり、腎不全の悪化により心不全などを起こして呼吸が苦しくなっても、透析は絶対にしたくないとのことでした。御家族は透析をした方がよいと本人を説得しましたが、本人は頑なに拒否したため、御家族も本人の意志であるため了承。今後急に状態が悪化する可能性が高いため、主治医より当院に訪問診療での24時間の対応の依頼があり、数日後より訪問診療での在宅医療を開始しました。 慢性腎不全による腎機能障害が高度になっていても透析を行わない場合、急に様々なことが起こる可能性があります。まず尿量が少なくなるため全身にむくみが出たり、心不全になったり、胸水や腹水がたまり呼吸が苦しくなることもあります。また特に糖尿病による慢性腎不全では、細い血管がもろくなっていることが多いため、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血、消化管出血なども起こりやすくなっています。さらに老廃物が尿から十分に出すことができないため、意識障害や致死的不整脈などが急に起こることもあります。それらが起こらなくとも、次第に吐き気などで食欲がなくなったり、免疫力が低下するため、肺炎などの感染症を繰り返したりもします。 このように透析が必要な状態であるにもかかわらず、様々な理由で透析を希望されない患者様を、他院から1年に2〜3人くらい当院に御紹介頂きます。個人的には、主治医から透析を勧められたら受けて頂きたいと思います。それは必要時に受けなければ、呼吸が苦しくなり患者様自身が苦しむからです。何らかの理由で、透析を中断せざるを得ない方や透析導入ができない方に対しては、今後も当院で対応していきたいと考えておりますが、御家族には急変する可能性が高いため、自宅での看取りを了承して頂き、対応しているのが実情です。