今回の仮想患者様Vさんは90歳の男性の方で、これまで慢性心不全にて病院に定期的に通院されていました。85歳頃から心臓の機能が著しく低下してきていて、1年に数回心不全の悪化の為、入退院を繰り返していました。90歳になり体力面などから、車椅子でも通院が困難となってきたこと、主治医から心臓の機能がほぼ限界になっていると説明されたことなどから、御本人と御家族が自宅への訪問診療を希望。そのため主治医より当院へ訪問診療の依頼があり、御家族が紹介状をお持ちになり来院されました。外来にてご家族に、もし心不全が悪化しても自宅では点滴などでの積極的な治療は困難であること、内服薬でできる範囲で治療は行うこと、もし心不全が悪化し内服薬などで治療を行っても改善しない場合には御本人の苦痛をとる様な治療も行えること、最期は自宅で迎えるという方針で良いか、などについて相談。御家族はこれらの方針を了解され、現時点では最期も自宅で迎えさせたいとのことで、翌日より訪問診療を開始しました。訪問診療開始当初は大きな変化なく、定期薬のみで安定して自宅で療養されていました。しかし約3か月後、全身の浮腫みや呼吸苦が出現。慢性心不全の悪化が強く疑われたため、利尿剤の内服の増量など行うも、症状の改善は認められませんでした。そのため御家族と、再度前医での入院治療を希望するか、それとも当初の話し合い通り、自宅でご本人の苦痛を取る治療を行いながら自宅での看取りを行っていくかを改めて相談。その結果、苦痛を取りながら自宅での療養を継続し、急変時には自宅での看取りを御家族は希望されました。その後患者様は心不全の悪化に伴い、内服や食事の摂取も困難となり、呼吸苦や倦怠感の訴えに対しても対応し、次第に呼吸状態や意識状態も悪化。数日後、自宅で御家族に見守られながら静かに息を引き取られました。 高齢化に伴い癌や老衰以外にも、このように心臓の機能に限界が来て、治療を行っても改善が見込めない際には、自宅で苦痛を取りながら看取らせて頂くケースも増えてきています。