医療コラム

介護医療コラム(58)「訪問診療 症例その四十五」

今回の仮想患者様sさんは85歳の男性の方で、70歳時にアルツハイマー型認知症と診断され治療を継続されている方です。72歳時に右のこめかみ部分の皮膚にできものが出現。3年程様子を見ていたところ、ゆっくりではあるものの大きくなってきたため、近医の皮膚科に受診。皮膚の有棘細胞癌と診断されるも、切除のためには入院が必要と言われ、本人は認知症を患っていること、それ程腫瘍が日常生活に支障をきたしていないことなどから、入院での腫瘍切除を希望されず。そのまま約13年様子を見ていました。約13年経過すると、当初1㎝程の腫瘍が10㎝程に大きくなり、最近ではその腫瘍部分から悪臭を伴う粘液が出たり、出血することも多くなってきたため、総合病院の形成外科に腫瘍切除について再度相談のため受診。その際、腫瘍が大きくなっているため簡単な手術ではないこと、腎臓の機能が低下しているため手術のリスクが高いことなどの説明を受け、手術での切除を断念。そのため総合病院形成外科から当院に、自宅での緩和ケアの依頼があり。数日後、自宅への訪問診療及び訪問看護を開始。まずは腫瘍部分の皮膚がビリビリするような痛みがあるとのことで、痛み止めの内服を開始。また腫瘍部分から悪臭を伴う血液が混じった粘液が出続けているため、悪臭をある程度抑えるような軟膏を使いながら外用処置を訪問看護 が繰り返し行っていきました。また併せてアルツハイマー型認知症に対する内服薬の調整と、睡眠薬の調整なども続けていきました。しかし次第に腫瘍部分からの出血量が増えていき、貧血の進行と共に食欲の低下と身体のだるさが悪化。ご家族に自宅での輸血は困難であること、ご本人が入院を希望しないこと、ご本人は認知症になる前に治らない病気になった時には最期は自宅で迎えたいということを話していたことなどから、このまま貧血は進行していくが、最期は自宅での看取りを行う方針としました。その後次第に食事や水分が摂れなくなり、意識状態も悪化し、最期は自宅でご家族に見守られながら静かに息を引き取りました。

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