医療コラム

介護医療コラム(59)「訪問診療 症例その四十六」

今回の仮想患者様tさんは72歳の女性の方で、約5年前に右の手足が急に動かなくなることがあったため、脳神経外科に受診。検査の結果、悪性の脳腫瘍が見つかり、脳腫瘍の摘出術を受けました。しかし腫瘍の場所が摘出困難な場所であったため一部が摘出できず、その後再発。そのため放射線治療を受けるも、十分な効果は得られず。約2年前からは脳腫瘍が大きくなったことにより、急に手足の動きが悪くなったり、意識を失ったり、痙攣することもあったため、脳神経外科の外来に通院し、内服薬にてそれらの症状を抑えるような治療を継続。約1年前からは、脳腫瘍による正常の脳の圧迫などにより、ほぼ寝たきり状態となり、寝台タクシーを利用しながら脳神経外科に通院していました。しかし寝台タクシーでの通院も身体の負担が大きく、困難となりました。ご家族と本人が話し合った結果、ご本人がずっと農家として働いてきた自分の家の畑を見ながら、残された時間をできるだけ家族と一緒に自宅で過ごしたいという希望があり。そのような希望を脳神経外科の主治医に相談したところ、当院へ訪問診療の依頼があり。そのため数日後より自宅への訪問診療と訪問看護を開始しました。訪問診療開始当初より、ご本人は食事や水分、内服薬などを飲み込むことができない状態であったため、すでに造設されていた胃瘻から栄養剤や水分、内服薬の投与を継続。また背中に床ずれができていたため、その処置を訪問看護に依頼。さらに栄養剤や 内服薬の服薬指導や管理、残薬の整理、自宅への宅配などを訪問薬剤師に依頼。そのような体制で自宅の療養を支えていきましたが、次第に意識を失ったり痙攣する頻度が増えていきました。また痙攣が続く時間も最初は1分以内であったものが、数分と長くなるようになり、痙攣している最中はしばらく呼吸が止まってしまうことも多くなっていきました。ご本人とご家族には、恐らく脳腫瘍がさらに大きくなってきているため、痙攣の頻度や続く時間が多くなっている旨を説明。それに対し痙攣止めの飲み薬の増量や大きな痙攣の時には訪問看護師と連携し注射剤などの使用で対応。しかしある日、ご家族から痙攣がまた起こっているが、5分以上痙攣が止まらないという連絡があり、急遽往診を実施。約15分後に自宅に到着した際には、すでに心肺停止状態であったため、その場で死亡確認を行いました。急ではありましたが、ご家族はご本人の意志を尊重できたので、良かったと話されていました。

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