医療コラム

介護医療コラム(51)「訪問診療 症例その三十八」

今回の仮想患者様lさんは80歳の男性の方です。アルツハイマー型認知症があり、自宅でご家族の介護を受けながら療養し、毎月家族に付き添われながら、近医に外来通院されていました。約1か月前に夜間急に高熱を出し、急性肺炎のため総合病院に救急搬送され入院。入院時に撮影したCTで、肺炎の他に左の腎癌が偶然見つかりましたが、ご本人は特に痛みなどはないとのことでした。肺炎の治療のため、入院中酸素や点滴の投与が行われていましたが、入院して3日目の夜間に急に家に帰ると怒り出しました。医師や看護師、ご家族が肺炎のため入院を続けなければならない旨本人を説得するも、「このままここにいたら殺される、家に泥棒がはいる」などの言動が認められました。これはせん妄という状態で、特に高齢の方が急に入院などの刺激のない生活になると、日中寝て夜間眠れなくなり、一時的に意識障害を起こし、妄想などを起こすものです。これは退院すると嘘のように症状が消失します。今回の入院でせん妄を起こし、年齢的にも、認知症があり安静が保てないことからも、腎臓癌に対して積極的な治療は困難と判断され、ご家族も同意されました。ご家族から、ご本人が認知症になる前から、自宅で好きなことをしながら最期を迎えたいと話していたということで、今後自宅での緩和治療を希望。そのため入院中の病院の退院支援課より、当院に在宅緩和治療の相談があり。数日後入院中の病院にて、入院担当の主治医と看護師、退院支援課の看護師、今後在宅療養を支援する訪問診療医、訪問看護師、ケアマネージャー、介護用品レンタル担当者、患者様ご本人とご家族が集まり、自宅退院に向けての用意すべき物、問題点、急変時の対応、退院日などに関して、退院時カンファレンスで話し合いを行いました。しっかり退院前に話し合いをしたことで、ご本人もご家族も安心され数日後自宅退院。在宅緩和ケアをその後各職種で行い、認知症のため自覚症状が乏しいこともあり、順調に自宅療養を継続。お亡くなりになる約2週間前から急に発熱や腰背部痛が出現し、寝たきり状態となった頃から、入院中見られたせん妄がまた出現。しかし今回は事前に予想されていたため、内服薬の調整などで痛みやせん妄もコントロールができました。最期は介護を懸命に続けられてきたご家族に見守られながら、静かにご自宅で息を引き取られました。

お問合せ

〒090-0065 北海道北見市寿町5丁目1-10

0157-26-6471

発熱などの症状のある方は、来院される前に必ずご連絡をお願いいたします。