医療コラム

介護医療コラム(41)「訪問診療 症例その二十八」

今回の仮想患者様bさんは65歳の男性の方で、昨年まで毎年胃のバリウム健診を受けていましたが、特に異常は指摘されていませんでした。数か月前から毎食後、みぞおちから右わき腹付近に違和感を感じるようになり、約1か月前からは食後にみぞおちが張るような痛みを感じるようになりました。昨日多量に吐いたとのことで当院に来院。翌日胃カメラを実施したところ、前日夜から食事を中止していたにもかかわらず、胃内に食べた物が多量にあり。胃内には特に病気は見つからなかったものの、十二指腸に食べた物の通過を妨げるような大きな腫瘍があり。その腫瘍より生検検査を行ったところ、十二指腸癌の診断となりました。その為、総合病院での全身精査及び治療が必要と判断し紹介。総合病院でのCTなどの検査にて、肝臓に多発転移を認め、手術での治療は困難と判断されました。 その後胃カメラにて、食べた物の通過を助けるステントというものを十二指腸に挿入した後、抗癌剤治療を約3か月間実施。しかし癌の進行が抑えられず、体力的にもこれ以上の抗癌剤治療は困難と判断されました。その為患者様とそのご家族が残された時間を少しでも長く自宅で過ごしたいとのことで、総合病院より当院に自宅への訪問診療の依頼があり。訪問診療開始前に、ご本人とご家族にお腹の中に癌がばらまかれている癌性腹膜炎という状態であるため、水分や食事がとれないからといって点滴をすると、お腹の中などに水が溜まってしまい苦しくなってしまうため、点滴などは行わずに口から摂れる範囲の食事と水分で様子を見ていくこと、痛みや発熱、様々な苦痛などに対しては、飲み薬や張り薬、座薬などにて治療を行っていくという方針を説明。ご本人とそのご家族はその治療方針で了承されたため、数日後から自宅への訪問診療を開始。訪問診療開始当初は、総合病院から処方されていた一般的な痛み止めのみで特に自覚症状はなかったものの、その約2週間後から痛みの増強と吐き気が出現。そのため、モルヒネ製剤と吐き気止めを開始することで対応。その後だるさや不眠などの症状に対しても様々な内服薬にて対応。その間も自宅にて奥様の介護を受けながら、昔からの友人の方や兄弟、お子さんなどとご自宅で楽しそうにお話をされたり、ご自宅の庭などを眺めながら療養されていましたが、訪問診療開始約2か月後にご自宅でご家族皆さんに見守られながら安らかに永眠されました。

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