今回の仮想患者様Zさんは86歳の男性の方で、以前からグループホームに入居されていました。認知症と慢性心不全にて通院が困難であったため、約2年前から当院で定期的な訪問診療にてフォロー中でした。ある夜、突然38度を超える発熱と嘔吐、下痢が出現。施設で朝まで様子をみるも症状が改善しないとのことで、急遽翌朝往診の依頼があり、往診を実施。特に生ものの摂取などはなく、明らかに強い腹痛などはないものの、頻回の嘔吐や下痢、発熱でぐったりとしている状態でした。お話を伺うと、1日前に御家族が面会に訪れ、その際にひ孫さんが先日まで嘔吐と下痢をして回復したばかりだったとのこと。そのため患者様の便からノロウイルスが検出されるか簡易検査を実施。結果は陰性でした。しかし水分も全く摂れない状態で、脱水も強く疑われたため、施設と連携している訪問看護ステーションに連絡し、特別指示書による医療保険での頻回の訪問看護での対応を依頼。同時に連日点滴の実施も指示。また嘔吐による誤嚥性肺炎や窒息を防ぐため、食事もしばらく中止としました。翌日には、同施設の他の入居者2人も同じような胃腸炎症状と高熱が出現。再度その2人の方にもノロウイルス検査を実施したところ、1人からノロウイルスを検出。そのため全員がノロウイルス性胃腸炎の可能性が高いと判断し、その後も症状を発症された入所者の方々に対し、同様の対応を実施。その後約1週間で何とか全ての患者様が回復し、食事を摂れるようになりました。 今回の症例のようにノロウイルス性胃腸炎は非常に感染力が強く、施設で発生すると、どんなに職員の方が感染源である嘔吐物や下痢便の適切な処理を行っても、他の方にうつってしまう可能性が高い病気です。ノロウイルス性胃腸炎で怖いのが、嘔吐物による誤嚥性肺炎や窒息です。そのため食事を止めることによりそれらを防ぎ、そのかわり脱水になることも多いことから点滴も実施します。また今回のように、ノロウイルスの簡易検査キットは、1人だけに検査を行っても判断が難しく、3人くらいに実施すると、ノロウイルスがでていれば1人くらい陽性となる可能性が高くなります。1人でも出れば、同時に他のウイルス性胃腸炎が流行することは考えにくいため、他の方もノロウイルス性胃腸炎として対応します。ノロウイルス性胃腸炎は感染力が強いため、特に施設であれば迅速で適切な対応が必要といえます。