今回の仮想患者様Wさんは85歳の男性の方で、80歳の時に脳梗塞を発症し、脳神経外科にて入院治療を受けました。脳梗塞の後遺症で右半身麻痺があり、脳神経外科を退院後、他の病院に転院しリハビリを続けました。しかし自分で歩いたり、食事をとれるまでには改善せず、その後自宅で御家族からの介護を受けながら、車椅子とベッド上での療養生活を送られてきました。年々体力的に車椅子で過ごせる時間が減っていき、車椅子で通院していた脳神経外科への定期受診も困難となっていきました。85歳になった最近では、ほとんど一日中ベッド上での生活を余儀なくされ、通院もできなくなりました。そのため、それまで通院されていた脳神経外科より、通院が困難であり、御家族が訪問診療での治療の継続を希望しているとのことで、当院に訪問診療の依頼があり。紹介状をお持ちになり、御家族が当院外来に受診されました。御家族から、患者様本人がこれまでもう入院はしたくないと話していたこと、もし食事がとれなくなったとしても、点滴や胃瘻などでの延命治療は希望しないということを伺いました。そのことから、飲み薬での治療は積極的に行うが、御本人が苦しんだりしない限り点滴などは行わず、御自宅での看取りを含めて今後当院訪問診療で治療を継続していく方針としました。数日後より自宅への訪問診療を開始。脳神経外科からの内服治療を継続し、定期的な訪問診療にて経過観察を行って いきました。肺炎で発熱された際にも緊急で往診を行い、抗生物質の内服で治療を行いました。その後次第に脳梗塞後の影響で、食事を飲み込む機能が徐々に低下していきました。食べ物を口に入れてもしばらく飲み込めないことが増え、時には最後まで飲み込めず出してしまうこともありました。また水分も食べ物と同様に、飲める量が次第に減っていきました。その状況が続き、栄養状態の悪化及び脱水傾向が進み、老衰状態となっていきました。そのため御家族に今後、当初の方針で良いかを再確認したところ、希望に変わりはないとのことで、御本人が苦しんでおられる様子もないため、そのまま経過観察。しばらくして一切水分や食事の摂取ができなくなり、その約1週間後には御家族に見守られながら、住み慣れた御自宅で静かに息を引き取られました。 基礎疾患によらず、年齢と共に飲み込む力が落ちて、最終的に老衰状態で最期を自宅で迎える方々は増えてきています。