医療コラム

介護医療コラム(11)「訪問診療 症例その一」

今回のコラムからは、実際に私が訪問診療の依頼を頂くことが多いケースを、仮想の患者様として設定し、どのような診療を行っているかお話したいと思います。このコラムを通じ、実際に介護などで苦労されている御家族の何らかの手助けになればと思います。 今回の仮想患者様Aさんは、90歳女性の方で、これまで特に大きな病気をしたこともなく、腰痛や膝の痛みなどでたまに整形外科に受診している程度で、これまでは元気に一人暮らしをされていました。しかし数か月前から徐々に食欲がなくなり、その頃から外出することも少なくなったせいか足腰も弱くなり、最近では自宅でほぼ寝たきりの状態になってしまったとのことでした。その為御家族から、病院に連れてくるのも難しいとのことで訪問診療の依頼があり、数日後訪問診療を開始。御自宅で診察したところ、特に認知症もなさそうで、採血検査をしても特に問題なし。診察上も特に問題なし。御本人や御家族から話を聞くと、最近何となくムカムカしていて食欲が出ない。食事をあまりとらないせいか便も五日に一回程度しか出ないとのことでした。 このような患者様に対し、まず私が行う治療としては、胃薬と下剤の処方です。なぜこのような治療をするかというと、まず胃薬ですが、特に御高齢の背中が曲がっているような女性の患者様には逆流性食道炎が多くみられるため、胃酸を抑えるような胃薬を投与します。それによりムカムカが改善され、食欲が改善することがあります。次に下剤ですが、自分で動けなくなると腸の動きが悪くなり、ガスや便の出が悪くなります。それに伴いお腹が張るため、食欲もなくなります。その為便秘を改善させる為、腸の動きを良くするような下剤や、便を柔らかくする下剤などを組み合わせ、便が順調に出るようにコントロールします。これらの治療により食欲が改善し、その後リハビリなどを行うと、また少し歩けるようになる方も少なくありません。しかしこの治療でも改善しない場合には、老人性うつ病や消化器系のがんを疑う必要があります。老人性うつ病を疑う場合には抗うつ剤の投与、消化器系のがんを疑う場合には、全身状態が許せば、胃カメラや大腸カメラ、CT検査などを組み合わせて病気の有無を調べます。これらの検査を行った結果特に問題なく、治療の効果も見られない場合には、老衰状態を強く疑い、そのまま御自宅で自然の経過で看取らせて頂くケースも多くみられます。

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