今回の仮想患者様nさんは68歳の女性で、これまで特に大きな病気をしたこともなく、ご主人と二人暮らしの主婦の方です。約半年前から、たまに尿をした際に血尿が出ることを自覚していましたが、特に残尿感や痛みを感じることはなかったため、様子を見ていました。しかしその後血尿が出る頻度が増え、血尿も段々濃くなってくるように思われたため、近医の泌尿器科を受診。そこで膀胱癌の診断となり、総合病院の泌尿器科へ紹介。精密検査の結果、膀胱を全て摘出する手術が必要と判断され、後日膀胱全摘及びお腹から外に尿が直接出るようにするウロストマを造設。手術後は外来で経過観察となっていましたが、約半年後のCT検査にて、お腹の中のリンパ節転移及び腹水を認め再発と判断。抗癌剤治療も検討されるもご本人は治療を希望されず、緩和治療を受けながら自宅での療養を希望。そのため当院に訪問診療による在宅緩和治療の依頼があり、後日訪問診療を開始。訪問診療開始当初は大きな変化なく、一般的な痛み止め程度で安定していました。しかしその後、徐々に腹痛の増強と腹水の増加に伴うお腹の張りが辛くなり、モルヒネによる腹痛の軽減及び利尿剤による腹水の軽減を目指し、それぞれの投与を開始。しかし十分な症状の緩和が得られず、介護者の夫の介護疲れも目立つようになってきたため、紹介元の総合病院泌尿器科に相談。症状緩和のための入院治療及び夫の介護疲れを解消する目的に約1週間入院。その際に総合病院の緩和ケアチームもnさんの苦痛症状に対して、飲み薬の調整及び症状緩和のためのリハビリ、栄養士による栄養指導、精神的なサポートなども実施。それらの入院治療により症状改善し、夫の介護疲れも軽減したため、再び自宅に退院し訪問診療を再開。その後も何度か、十分な症状緩和が得られない時や夫の介護疲れがピークになった際に、総合病院泌尿器科に一時的な入院を依頼しながら、何とか在宅療養を継続。在宅での緩和治療を始めて約半年後、nさんは懸命に介護を頑張ってこられたご主人に見守られながら、ご自宅にて静かに息を引き取られました。ご主人は、ご自身ができる範囲で介護を頑張ることができ、nさんの希望していたご自宅で最期を迎えるという希望を叶えることができて、悔いはなく満足しているとのことでした。