今回の患者様⑫さんは39歳女性の方で、約1年前の健診にて肺癌が見つかり、手術と抗がん剤治療などを受けるも、約半年前に再発と診断。その後抗癌剤治療などを継続して行うも効果が乏しく、体力的にも継続が困難となりました。そのため主治医と相談し、緩和治療を選択。通院が困難なため、主治医より当院に在宅緩和治療の依頼があり、数日後自宅への訪問診療を開始。ご自宅では日中ご本人のお母様が主に介護をされ、夜間は仕事から帰られたご主人が介護をされていました。また小学生低学年のお子さんが2人おられ、お子さん達も学校から帰るとお手伝いをされていました。ご自宅では食事の摂取が困難で、呼吸困難の状態であったため、高カロリー輸液の24時間投与と在宅酸素療法を行いながら、モルヒネ製剤などを使用して、痛みや呼吸苦に対して緩和治療を行っていきました。病状は厳しいものの、ご自宅でお子さんをはじめ、ご家族と残された時間を少しでも長く過ごしたいという希望があり、訪問診療医と訪問看護師、訪問薬剤師などでチームを組み、在宅緩和治療を継続していきました。しかし病状の悪化と共に、在宅緩和治療開始約1か月後には呼吸状態が悪化し、ご本人の呼吸苦が特に強くなった際には、往診などでその都度対応していきました。往診に伺った際、お子さん達は心配そうな表情だったり、泣いていることもありました。またお母様やご主人の介護疲れも、顕著になってきていました。そんなある日、お母様とご主人から相談があるとのことでご自宅に訪問。病状から残された時間があと1か月程度という状況であるが、苦しがってどんどん衰弱している母親を、子供達が最期の亡くなる瞬間まで見ているのは精神的負担にならないだろうか、母親が亡くなった自宅でその後過ごすことが精神的負担にならないだろうかという相談でした。現にお子さん達は夜間眠れないことがあったり、泣いてしまうことが増えてきているとのことでした。ご本人の残された時間をご自宅で家族と過ごすという希望と、お子さん達の現在と将来的な精神的負担を考えると非常に難しい問題でしたが、ご家族とご本人と相談。ご本人もお子さん達のことは気になっていたとのことで、話し合いの結果、約1週間後に緩和ケア病棟への入院にて緩和治療を継続し、なるべく家族も付き添えるような個室での対応という方針となりました。その後ご自宅ではありませんでしたが、家族に付き添われながら緩和ケア病棟で最期を迎えられたとのことでした。