今回の仮想患者様Sさんは75歳の男性の方で、以前から調子が悪いと言っているにもかかわらず病院に行こうとせず、家の中でも歩けなくなってきていて、食事をあまり摂らずお酒ばかりを飲んでいるとのこと。病院に連れて来たいのだが連れて来れず、困って御家族が相談に来院。一度診察してどこか悪い所がないか確認してほしいとのこと。そのため1週間後に御自宅に訪問診療を実施。お話を伺うと、若い頃から毎晩のようにお酒を飲んでいて、定年退職後は日中からお酒を飲んでいたとのこと。半年前から食欲がなくなり、足がむくんだり腹が徐々に張るようになり、ボーっとしている時間が増えてきた。さらに最近、足に力が入らず、家の中を動くことも難しくなってきたが、お酒はやめられず少しずつ飲んでいるとのこと。採血検査と腹部超音波検査を実施し、それらの結果から、アルコール性肝硬変によるむくみや腹水、肝性脳症、そしてウェルニッケ脳症の合併を疑いました。総合病院での精査加療をお勧めしましたが本人拒否され、家族も連れて行くことができないとのことで、その後も訪問診療にて自宅で可能な範囲での内服治療などを行っていきました。また介護保険も申請し、少しでもご家族の負担を減らすため、訪問看護や訪問介護の導入なども行いました。 このように、長年にわたって休肝日を設けず、毎日のように多量のアルコール摂取をしていると、肝臓がアルコールによって常に炎症を起こし、やがて肝臓が石のように固くなって肝臓のあらゆる機能が低下する肝硬変という状態になってしまいます。肝硬変になると、血液中のアルブミンという蛋白質が低下し、むくみや腹水などの症状が出ます。さらに通常、肝臓で分解されるアンモニアという老廃物が、肝硬変になることで分解しづらくなり、血液中のアンモニア濃度が上昇し脳に影響を与え意識障害を引き起こす、肝性脳症が出現することもあります。肝硬変になるとさらに、血が止まりにくくなったり、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなったり、食道や胃に静脈瘤というものができて吐血の原因にもなります。またこの症例のように、長年食事を摂らず飲酒ばかりしていると、ビタミン不足の為脳の一部がダメージを受け、認知症のような症状や運動障害を起こすウェルニッケ脳症という病気になることもあります。 肝硬変になるとほぼ治すことができず、肝臓がんを合併しやすくなります。1年に1回くらいこのようなご相談がありますので、こうなる前に病院への受診をお勧めします。