今回の仮想患者様Fさんは92歳男性の方で、約5年前から施設に入所し介護を受けながら生活していました。 約1年前から歩行が困難となり、ベット上で過ごされることが多くなってきました。半年前からは歩行できなくなり、車椅子かベッド上での生活となっています。2〜3か月前からは食事を飲み込むのに時間がかかるようになり、むせることも徐々に増えてきました。ここ1か月の間では食事量も減り、時折微熱が出たり痰が絡むことも増えてきました。痰が自分でうまく出せない時、吸引しなければならないことも次第に増えてきました。食欲が低下し体重も減ってきており、病院に連れてくるのも困難とのことで、御家族が当院に訪問診療の相談の為来院されました。外来でお話を伺っている中で、痰の吸引なども頻回に必要となる可能性が高いため、数日後訪問看護師と共に訪問診療を開始。診察を行ったところ、動脈血酸素飽和度の低下は認めないものの、痰がらみと微熱を認めるため採血検査を実施。その結果軽度の誤嚥性肺炎を繰り返している可能性が高いと判断し、口腔ケアの指導と水分や食事にとろみをつけて飲み込みやすくする指導を訪問看護師から実施。同時に内服の抗生物質を処方し経過観察としました。その後微熱は消失したものの痰がらみは継続し、食事摂取量もあまり改善しませんでした。その後再び微熱が出るようになり、動脈血酸素飽和度も低下するようになり、さらに水分や食事もとることが困難となってきたため、今後の治療方針について家族と相談することとしました。 このようなケースは、日常診療において非常に多く経験します。このような場合にいつも私がご家族にお話する内容 は、以下のようなことです。 ①高齢となり飲み込む力が低下し、唾液や水分、食事の一部が口腔内の菌と一緒に気管に入ってしまっている。飲み込む力を回復させるのは困難。 ②菌が気管に入ることで、肺炎を繰り返している。そのような肺炎を誤嚥性肺炎と呼ぶ。 ③誤嚥性肺炎は抗生物質の投与などで治療するが、治ってもまたすぐなることが多い。 ④誤嚥性肺炎は繰り返せば繰り返す程、抗生物質が効かない菌が残り、段々治りにくくなり重症化する。 ⑤食事がとれていないと栄養状態が悪くなり、水分補給のための点滴を行うと、痰が増えて痰の吸引が頻回に必要となり、むしろ患者さんを苦しめてしまうことがある。また点滴を繰り返すと、むくみや胸水の原因にもなりうる。 以上の様なお話をした上で、胃瘻や点滴、積極的な肺炎の治療などを希望される場合には、療養型病床をもつ病院をご紹介し、積極的な延命治療などを希望されない場合には、経口から摂取できる食事や水分、内服薬で自然の経過で経過観察とし、肺炎の悪化や老衰で状態が悪化しても、最期まで当院訪問診療にて診させて頂くケースも増えてきています。