今回の仮想患者様Mさんは97歳女性の方で、約十年前までは大きな病気もなく、自宅で一人暮らしをされていました。しかし加齢による下肢の筋力低下の為、車椅子での生活となり、自宅での生活が困難となって、約十年前からグループホームに入所されていました。入所された頃は、車椅子に乗りながら少しの介助があれば、ほとんどご自身で食事ができていました。しかし約三か月前から徐々に食事量が低下し、車椅子に乗るのも辛いとのことで、ベッド上での生活となっていました。受け答えなどははっきりでき、身体がこわいという以外は自覚症状も特にありませんでした。その後、次第に食事を飲み込むことが困難となってきて、ここ一か月でさらに食事量や飲水量も減ってきていました。昨日グループホームの介護士から、「Mさんがいつもより元気がなく、尿の出る量も減ってきている。何よりも気になるのが、両側の足のゆび先が少しずつ紫色に変色してきている」と施設の看護師に報告があり、施設看護師が訪問看護師に報告し、訪問看護師より訪問診療を定期的に行っている当院に報告がありました。その為同日夕方に往診を実施。診察を行ったところ、血圧や呼吸状態は特に問題ないものの、両側の足のゆび先が数本紫色となり、下腿にもうっすら紫色の網状の皮膚変色を認めました。 このゆび先と下腿の紫色の変色は、チアノーゼと呼ばれているものです。これは身体の調子がかなり悪くなると、手足の先まで酸素を十分含んだ血液を送れなくなることにより起こる現象です。このチアノーゼが一旦出現し、消失せず続いている状態だと、全身状態があまり良くない状態だといえます。さらにそのチアノーゼの範囲が1日のうちにどんどん広がってくるような状態だと、朝食を摂れていたのに昼には心肺停止状態となることも珍しくはありません。そのため老衰の方でこの状態となった際には、すぐ御家族を呼んで最期をどこで迎えるかなどの相談をする必要があるのです。そのため介護士ー看護師ー医師の迅速な連携が重要となります。普段から家族のように介護をしてくれる介護士は、患者さんのちょっとした変化も気付いてくれ、介護にも医療にも精通している看護師は、何か患者様に変化があった際には、医師に報告すべき変化かを判断してくれます。このように各職種間で連携ができていると、患者様の急な病状変化に対しても、比較的迅速に対応することができます。御高齢の患者様に対しては、このようなチーム医療が特に必要と考えます。

