5回目のテーマは不眠についてです。終末期医療において、不眠となる患者さんは少なくありません。癌の終末期の患者さんでは不安や痛みなどで夜間不眠となり、寝たきりとなった患者さんでは日中寝てしまうことなどで夜間不眠となってしまいます。また、特に終末期医療においては、夜間不眠が続くとせん妄という意識障害を起こすことがあります。せん妄を起こすと多くの場合、幻覚や妄想によって興奮状態となり、夜間に大声を出したり物を壊してしまうなど、介護の継続を難しくさせてしまいます。私が以前担当した高齢で癌の終末期の患者さんでは、夜間不眠が数日続いた後、それまで約1か月歩けなくなり寝たきり状態であったにもかかわらず、午前2時くらいから窓の外に泥棒がいてこっちを見ていると言って、家の家具などを窓に投げて割ってしまったり、玄関の鍵を開けて寝巻のまま裸足で外に出てしまい、一時行方不明となって警察に探してもらったこともありました。このようなせん妄を起こさないためにも、終末期医療において、不眠に対する治療は重要と言えます。 まず基本的には、朝になったらカーテンを開けて太陽の光を浴びさせて、日中昼寝をするのは30分程度にすること、適度な運動をして身体を少し疲れさせてから眠るようにする生活習慣が重要です。それでも改善しない場合には、睡眠を調整する内服薬を使用します。終末期や高齢者の患者さんにおいては、通常若い人に処方するような睡眠導入剤は使用せず、睡眠調整薬やせん妄を予防するような精神科薬を少量ずつ、副作用に注意しながら使用していきます。 患者さんが夜間不眠となると、日中仕事をしながら介護をされている患者さんのご家族も夜間眠れなくなり、介護の継続が厳しくなってしまいます。そのため夜間に患者さんが眠れているかどうかについては、特に在宅医療において私が診療するにあたり、気にかけている症状の一つです。