3回目のテーマはサクションについてです。サクションとは、吸引する装置に細い管をつなげて、患者さんの口の中や喉の奥、気管から唾液や痰を吸い上げることです。それを行うために、鼻の穴や口からその細い管を入れます。肺炎や心不全などの痰が多く出る病気で入院中の際には、高齢などの理由で自分で痰が出せない時、このサクションを行い痰などを吸ってあげると、気道の空気の出入りが改善し呼吸が楽になります。また飲み込む力が低下している方において、食べたものや飲んだものが気管に入ってしまう誤嚥が起こった際に、サクションをすることで窒息や誤嚥性肺炎を防げることもあります。 終末期医療において、特に心不全や腎不全、肺炎、肺癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、のみ込む力が低下している患者さんでは、唾液や痰が多くなることがあります。これらの病気の患者さんを施設や自宅で担当する際に、施設看護師やご家族の方から痰が絡んでいて苦しそうなので、サクションした方がいいのではないか?という相談を受けることが多くあります。その際に次のように説明しております。「今患者さんは終末期の状態であり、もし今気道でガラガラいっている痰や唾液をサクションして取ったとしても、またすぐ貯まってしまう可能性が高い。そのため何度も何度もサクションを行わないといけない。サクションを頻回に行うと、粘膜に傷をつけてしまい出血する可能性が高い。出血すると唾液や痰に血が混ざり、気道に絡んでしまう物の量が増えたり固くなったりして、サクションの頻度がさらに増えたりサクションがしづらくなる。何より患者さんが頻回にサクションされると苦痛を伴う。終末期の患者さんでは、意識状態がやや低下していることが多いため、痰が絡んでいる苦痛は、頻回にサクションされる苦痛よりは少ないと考えられる。」このような説明は、これまで多くの患者さんを診させて頂いた私の経験からお話させて頂いております。サクションをして少しでも苦痛を取ってあげたい、少しでも長生きしてほしいという家族の思いと、患者さん本人に与える苦痛という観点から、今後も納得するまで話し合いながら方針を決めていく必要がある医療処置の一つと考えています。