アルツハイマー型認知症の患者様に対し、デイサービスやショートステイを利用しながら、月に2回程度の訪問診療にて認知症と内科疾患の治療を継続していきました。その数か月後に、御家族より患者様が夜十分眠れないようで、未明から部屋でゴソゴソと何かしているようだという相談があり、比較的認知症の患者様に副作用が出づらい睡眠薬を開始しました。認知症の方は、夜間十分眠ることができないと日中寝てしまい、昼夜が逆転してしまうことがよくあります。そうなると、せん妄という一時的に意識障害が起こり、頭が混乱した状態になることがあります。この状態になると幻覚を見ることもあり、興奮状態となり大声を出したり、暴力もみられます。このせん妄状態にならないためにも、なるべく日中身体を動かし昼寝をせず、夜間しっかり睡眠をとって頂く必要があるのです。また夜間患者様が眠れていないと、御家族の介護負担も大きくなるため、その意味でも眠れない際の対応は必要と考えられます。その後、些細なことですぐ怒るようになることがあったり、自分のものを誰かに盗まれたと訴え暴力的になったり、目的もなく外に出ようとして目が離せなくなるなど、様々な症状が時折見られたため、患者様とご家族の話を聞きながら、その都度興奮を和らげるような内服薬などを調整しながら対応。そのような対応をしながら、約1年間訪問診療を続けていくと、患者様は次第に下肢の筋力低下の為に、車椅子生活からベッド上での生活となっていきました。その頃から食欲の低下や食事の飲み込む力が弱くなるなどの症状が出現。その後食事をむせたり、痰が絡んだり、微熱がでるようになってきました。これは飲み込む力が低下してきたことで、食べた物や水分、唾液の一部などが気管に入ることで、軽い誤嚥性肺炎を繰り返し、重症な肺炎につながっていきます。 皆さんもご存じの通り、認知症の患者様は年々増えてきています。いつ自分や御家族が認知症になっても不思議ではないのです。最近の知見では、認知症の患者様は、自分の気持ちを家族や介護者にうまく伝えられず理解してもらえないために、イライラしたり暴力的になったり、家族に迷惑がかかると考え徘徊するといわれてきています。介護される御家族も大変ですが、患者様自身も苦しんでいるのです。その為認知症に対しては、御家族や介護者、医療者だけで全てを解決できず、市町村や社会全体での認知症に対する理解やサポートが早急に必要と考えられます。