今回の患者様⑤さんは82歳男性の方で、75歳の時に脳幹出血を発症し、それ以降その後遺症のため寝たきり状態となり、自宅でベッド上の生活となっておりました。お子さんはおらず、同じ年の奥様が訪問看護や訪問介護、訪問入浴、ショートステイとデイサービスを利用しながら、懸命に介護をされていました。意思の疎通は、簡単な質問程度でなければとれず、食事や排泄もベッド上で主に奥さんが介助をしながら、長年行ってきました。約1年前から食事や水分をのみ込む時にむせることが多くなり、2か月に1回程度、肺炎で救急搬送されて入院加療を受けるようになってきました。3回目の入院時に、担当医師から経管栄養や気管切開について勧められるも、お元気な時に本人から延命治療は希望しないというお話があったとのことで、ご家族は希望されず。また話し合いの結果、もう肺炎になっても入院治療は行わない方針となり、自宅でできる範囲での内服治療程度で症状の改善が得られず、急変された際には自宅で看取る方針となりました。そのため入院担当医から当院に訪問診療の依頼があり、退院翌日より自宅への訪問診療開始となりました。退院後も1か月に1回程度、軽い誤嚥性肺炎を繰り返すも、抗生物質の内服と解熱剤の座薬で何とか回復。しかし訪問診療開始後約半年で、のみ込む機能がさらに低下し、口から食事はおろか水分の摂取や内服もほぼ不能となりました。奥さんには現状であれば余命は1〜2週間になる可能性が高い旨説明し、急変時には以前の話し合いの通り、自宅での看取りで良いかを再度確認し了承されたため、点滴などは行わず自然の経過で経過観察。数日後に奥さんが、疎遠だった本州に住んでいるご主人の弟に、医師からあまり長くはないと言われたという旨の電話をしたところ、その弟さんが自宅に訪問。するとその弟さんがすぐ入院させるように奥さんに強く要求。そのため急遽訪問診療医と訪問看護師、ケアマネージャーが呼ばれ、これまでの経緯や、お元気だった際の患者様ご本人の意志などを約1時間説明するも納得されず。その弟さんから今すぐ入院させるよう強く要求されたため、これまで介護を懸命に行われてきた奥様も、実の弟さんには逆らえないとのことで、やむを得ず前医に状況を説明の上、救急車にて搬送し入院となりました。その後急性期の病院から療養型の病院へ転院となり、最終的に特別養護老人ホームでご本人とご家族が希望されていなかった経管栄養にて療養継続をされたとのことでした。

