これまで様々な慢性疾患や悪性疾患の患者様に対し、比較的順調にご自宅や入居施設での療養をサポートすることができ、ご自宅や入居施設で最期まで、または入院するまで、訪問診療で対応可能であったケースを中心にコラムを書かせて頂いてきました。しかし実際には様々な理由で、在宅や施設への訪問診療を途中で中止せざるを得ないケースもあります。これから何回かのコラムでは、そのような訪問診療継続困難ケースとして紹介させて頂くことにより、このような場合には訪問診療が難しいんだということを、患者様の御家族や各医療機関、各介護関係者の方にご理解頂ければと思います。ちなみにこれまで何度かご質問を頂いたことがあるのですが、私のコラムは特定の患者様のことは書いておらず、私の経験を基に、仮想の患者様として話を作っておりますので、ご承知おき頂ければと思います。 さて今回の患者様①さんは90歳の男性の方で、80歳の時に発症した脳梗塞による右半身麻痺や脳血管性認知症などにより、常に介護を受けなければ自力での生活は不可能でした。87歳の奥様と二人暮らしでお子さんがおらず、夫婦の兄弟の方々もみんな高齢で、介護を手伝ってくれる方はいませんでした。①さんも認知症のためか、デイサービスやショートステイに行くこと、訪問介護を受けることを拒否され、奥様は腰痛症や膝関節症で整形外科に通院しながら、懸命に介護をされていました。これまでは①さんは右足を引きずりながら何とか歩けていましたが、1週間前に転倒した後自力での歩行が不能となり、寝たきり状態となってしまいました。しかし寝たきり状態という以外は食事も摂れていて、痛みや調子が悪いところもなく、担当ケアマネージャーから施設の入居を勧められました。しかし①さんはこれを拒否。やむを得ず奥さんが1人で自宅での介護を継続していましたが、奥さんの体力が限界に近く困っているとのことで、担当ケアマネージャーと奥さんが当院に相談に来院。数日後訪問診療開始し訪問看護も導入するも、約1週間後に奥様が体調を崩され入院。そのため①さんは自宅で1人となってしまったため、在宅での療養は不能と判断。急であったため、レスパイト入院ができる医療機関を探し一旦入院。その後特別養護老人ホームの空きが出たため、退院後直接施設へ入所となりました。奥様はその後退院され、施設に通いながら夫の介助を行っていきました。

