今回の仮想患者様wさんは84歳の女性の方で、約1年前に高血圧で通院していた診療所の採血検査にて、白血球と赤血球、血小板の値がそれぞれ急に低下していました。そのため総合病院の血液内科に紹介され精密検査を行ったところ、骨髄異形成症候群という診断となりました。骨髄異形成症候群とは、骨髄の中で正常な白血球や赤血球、血小板がうまく作れなくなるため、白血球が非常に少なくなると感染症になりやすくなり、赤血球が低下すると貧血症状がでて、血小板が非常に少なくなると出血しやすくなる血液疾患です。治療は幹細胞移植や化学療法となりますが、高齢者や体力的に厳しい方の場合には、対症療法として感染症になった時に抗生物質などでの治療や、必要時に赤血球や血小板輸血を行うこともあります。wさんは年齢的にも体力的にも積極的に治療するのは困難と考え、幹細胞移植や化学療法は希望されませんでした。そのため最初の頃は貧血が悪化した際に、数か月に1回程度、輸血を行っていました。しかし診断から約1年が経過した最近では、毎週輸血を行わなければ貧血症状が強く出て、日常生活を送れなくなるような状況となってきました。また輸血を行うにも、血管が細く輸血を行うための太い針を入れることも困難となり、何度も針を刺すため、痛みによる苦痛も限界に感じてきました。そのためご本人とご家族で話し合った結果、ご本人がこれ以上輸血は行わず、貧血症状やその他の苦痛症状を緩和してもらいながら、最期は自宅で迎えたいと主治医に相談されました。そのため主治医より、当院に在宅緩和治療の依頼があり、数日後自宅へ訪問診療医及び訪問看護師、訪問薬剤師でチームを組み、在宅緩和治療を開始。貧血による息切れや倦怠感、息苦しさが辛い時にはモルヒネの屯用にて緩和治療を開始。しかし貧血症状は日に日に悪化し、定期的なモルヒネ製剤の使用も開始。その後も貧血は悪化の一途を辿り、症状増悪時には、訪問看護師が頻回に訪問看護に入り、必要時には速やかに訪問薬剤師が自宅に医師の処方した薬剤を届け使用。しかし在宅緩和治療開始約2週間後には、ご本人からこれ以上は貧血症状による苦痛が耐えられないため、自宅で持続的に眠らせてほしいという希望があり。ご本人とご家族に恐らく今の状態で持続的に眠る薬剤の投与を開始すると、余命は2日以内になる可能性が高い旨説明。ご本人もご家族も理解した上で持続鎮静を開始。開始後約半日でご家族に見守られながら、眠ったまま息をひきとられました。

