今回の仮想患者様Pさんは85歳女性の方で、これまでずっと1人暮らしで、好きなことをいろいろしながら生活していました。約1年前にアルツハイマー型認知症と診断され、認知症外来で通院加療をしていました。市内に別に住んでいる娘さんが心配で定期的に様子を見に行くと、ガスの火の消し忘れや、お風呂の水を出しっぱなしにしているなどが頻回にみられるようになり、1人暮らしは困難という判断となりました。そのため5日前にグループホームに入所となりました。それを契機に、外来通院も拒否などが見られ困難とのことで、前医より当院に施設への訪問診療の依頼があり、訪問診療が開始となりました。入所直後より日中昼寝ばかりをして、夜眠らない時間が長く、昼夜逆転の状態となっていました。入所5日目の夜、窓の外に男の人がいる、大勢の人が私の財布を狙っているなどの幻覚や妄想が出現。介護士がそんなことはないと落ち着かせようとするも、興奮状態で大声を出し、落ち着かせることができないとのことで、施設より往診の依頼があり。急遽夜間往診をすることとなりました。 このような経過で考えられる疾患は、せん妄という一時的に、急激に認知症が悪化するような状態です。特徴としては、入院や施設入所後に刺激のない生活となり、さらに昼夜逆転の状態が続くと、夜間などに落ち着きがなくなり、幻覚や妄想が起こることにより、介護抵抗や暴言・暴力などが出現します。意識障害の一種であるため、本人は夜間大騒ぎしても、翌朝には覚えていないことがほとんどです。治療としては、入院中であれば、退院するだけで速やかに症状が改善します。しかし退院や施設退所が難しい方では、まず昼夜逆転を改善させるため、日中声かけなどで極力昼寝は避けるようにして、寝る前にせん妄を誘発しにくい睡眠薬などを服用して頂きます。 せん妄は刺激のない生活になるような場面で、認知症がない高齢者の方でも起こりうる状態です。そのため入院や施設入所となる際には、注意が必要です。


