今回の仮想患者様Kさんは87歳女性の方で、これまで自宅で脳梗塞後遺症や認知症などで家族の介護を受けながら療養されていました。ここ数年下肢の筋力低下などで通院が困難となり、御家族が病院へ薬をもらいに行くことが増えていました。数年前から食事の際に、たまに食べた物を吐いてしまうことがありましたが、頻回ではないため様子を見ていました。ここ最近、水分などは吐かないものの、食事した固形のものをほとんど毎日吐いてしまうようになり、体重も次第に落ちてきているとのことで、御家族が当院に相談のため来院。とりあえず原因を調べるため数日後に胃カメラを予約し、後日来院するように説明しました。 このような経過の症例で考えられる病気は、①食道がんや胃がん、②食道裂孔ヘルニア、③腸閉塞などです。まず①は、がんが進行し大きくなることで、食べた食事が食道や胃を通過できなくなることで嘔吐を繰り返します。次に②は、食べた物が胃から食道の方に戻ってしまうことで、嘔吐してしまう原因となります。食道は横隔膜より上の胸の中にあり、胃は横隔膜より下の腹の中にあります。食道から胃に移行する部分は、食道裂孔という横隔膜の穴を通っています。この部分が様々な原因で広がってしまうと、胃の一部が胸の中に入り込んでしまうため、食べた物が食道の方に戻りやすくなってしまうのです。最後に③ですが、これは小腸や大腸の動きが悪くなったり、小腸や大腸に大きな腫瘍ができることにより、食べた物の流れが悪くなるため、嘔吐の原因となります。これら①〜③に対する治療及び対処法は、①の場合では、可能であれば手術による腫瘍の切除。手術が困難であれば、食道がんの場合では、狭くなっている部分を強制的に広げる食道ステントの挿入や、胃に直接栄養剤を投与するための胃ろうの造設。胃がんの場合では、小腸に直接栄養剤を投与するための小腸ろうの造設などがありますが、今回の症例のように高齢の方の場合には、いずれの方法も困難なことが多く、緩和医療となることがほとんどです。②の場合には、胃酸を減らす内服薬や、食道と胃の動きを良くする内服薬などで対応します。③では、腸の動きが悪いだけの場合には腸の動きを良くする内服薬。腫瘍の場合には、可能であれば手術による切除。手術が困難であれば、腸管ステントの挿入などで対処することがあります。 いずれの原因でも、高齢で通院が困難で経口摂取が困難な症例では、その後訪問診療にて対応させて頂くことが多くなってきています。

