医療コラム

介護医療コラム(15)「訪問診療 症例その四(後編)」

(前編の続き) 御家族が点滴をすることによるリスクを了解されたため、訪問看護に特別指示書を発行し、医療保険での点滴実施を依頼。数日自宅で点滴を実施した後、再度訪問診療を行ったところ、下肢中心にむくみが出現し、以前よりも痰が増え、自分でうまく出せない時には訪問看護師が機械を使って痰を吸引するような状況となっていました。しかし点滴を行ってもあまり食欲の改善や食事の飲み込み、歩行困難は改善が得られないため、御家族と相談し点滴を中止。脱水により調子が悪くなったというよりは、年齢も高齢であるため、老衰傾向による下肢の筋力低下と、飲み込む力の低下により軽い肺炎を繰り返しているのではないかと判断。そのため肺炎を改善させる抗生物質や、食欲の改善を目的とした胃薬を処方し、経管栄養剤というカロリーが高い飲むタイプの栄養剤で経過を見ていく方針としました。 高齢者で食欲低下などがあると点滴を希望されることがよくあると思います。しかし今回の症例のように、特に心臓や腎臓の機能が低下している方や、栄養状態が悪い方などは、点滴をすることで逆に心不全の悪化やむくみ、痰の増加などを引き起こすことがあります。入院中ではそれらに対してすぐ対応できますが、自宅や施設に入所中の方では、迅速な対応は困難であり、点滴をすることでむしろ本人を苦しめてしまうということもあり 得ます。また医療制度的にも入院とは違い、自宅や施設で点滴を行うことには制限があります。通常訪問看護は、介護保険でサービスを受けますが、癌の終末期や難病などの方では、医療保険で訪問看護を受けることが可能です。そのため必要時に医師の指示の下、点滴を行うことができます。これに対し、特にそれらの疾患ではない方においては、医師が看護師に必要時に特別指示書というものを発行しても、1か月のうち連続して14日間しか医療保険で訪問看護が受けられないため、14日間以上の点滴はほぼ不可能となります。 高齢の患者様において、数日間点滴を行うことで、症状の改善が得られそうな場合には点滴を行いますが、老衰などで点滴を行っても症状の改善が得られないことが予想される場合には、点滴をすることでむしろ本人を苦しめることがありますので、点滴をしない方が本人を苦しめないという場合もあるのです。

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