今回の患者様②さんは78歳の男性の方で、70歳の時にアルツハイマー型認知症と診断され、定期的に精神科での通院加療を受けていました。元々の性格は温厚で、ご自宅で奥さんと娘さんに身のまわりの世話をしてもらいながら療養を継続。ご自宅では若い頃からの趣味であった風景画を描いたり、数か月に1度は家族で旅行に行くなど、穏やかな療養生活を送ってきました。しかし2年前の76歳になった頃から足腰が弱くなり、外に散歩に行く機会が減少。その頃から、日中家でボーっとしてうたた寝をすることが増えてきました。そのためデイサービスなどを利用し、下肢の筋力を上げるようなリハビリを行いながら、日中はなるべく眠らないように工夫。しかしそのうちデイサービスに行くのを嫌がるようになり、再び日中家で横になっている時間が増加。次第に精神科への通院も拒否され、やむを得ず家族が薬だけもらいに行くことも増えていきました。最近食事の量も減ってきたため、ご家族が精神科の主治医に相談。訪問診療への切り替えを勧められ、同院から当院に訪問診療でのフォローの依頼あり。数日後ご自宅への訪問診療と訪問看護を開始。訪問診療開始時には、日中はほとんど眠っていて夜は眠れず起きている昼夜逆転の状態となっていました。日中眠っていて食事も摂れていないため、まず夜しっかり眠って日中は起きていただくようにするために、ご家族に睡眠薬の処方を提案。しかしご家族は、以前 睡眠薬を他の医療機関でもらって飲ませたら、夜転んでしまったことがあるとのことで、処方を希望されず。そのためご家族に②さんを日中なるべく眠らせないようにして、夜寝て頂くよう指導し経過観察。その数日後、②さんが意味不明なことを言って家で暴れているとのことで、23時頃往診の依頼があり急遽往診を実施。自宅に伺った際には割れたお皿などが散乱し、ご本人は意味不明の言動が認められ、一過性の意識障害であるせん妄状態と判断。とりあえず早急な沈静が必要であったため、注射剤による沈静を実施し本人の興奮を抑えました。ご家族には昼夜逆転によりせん妄状態を引き起こしたため、やはり睡眠薬が必要である旨を説明。しかしご家族は温厚な②さんが暴力的になり、もう家で介護を続ける自信がないとのこと。そのため翌日前医の精神科に紹介し一旦入院となり、その後特別養護老人ホーム入所となったとのことでした。せん妄状態は在宅療養継続を困難にさせる原因の一つだといえます。