今回の仮想患者様Rさんは85歳男性の方で、脳梗塞後遺症の為、車椅子かベッド上の生活を送られていました。食欲もあり、いつもお食事をほとんど残すことなく、御自身で食べることができていました。半年くらい前から、車椅子での生活がやや困難となり、それまでの車椅子での外来通院も困難となりました。そのためご本人と御家族の希望もあり、外来通院から訪問診療に変更し、引き続き当院で定期的な診察や内服治療の継続を行いました。その後約1か月前から、食事が詰まるような症状が出現。食後にムカムカするような症状もあるとのこと。水分はそれほど詰まるような感じはないとのことで、胃酸が胃から食道に逆流し、むかつきや食道付近の違和感を感じる逆流性食道炎による症状を疑い、胃酸を抑える内服薬を処方し1週間経過観察としました。しかし1週間後再度訪問診療を行い、症状の改善の有無を確認したところあまり改善がなく、2日前に肉を食べたら、また詰まったような症状がでて嘔吐してしまったとのこと。そのため御本人と御家族と相談し、高齢でややリスクはあるが胃カメラを行い、食道に何か病気がないかを調べることとしました。自宅で胃カメラをすることはできず、当院に来院し胃カメラをすることになり、御家族だけでは御本人を連れてくることが困難とのこと。そのため介護保険を利用し、介護タクシーをお願いし、当院に来院して頂きました。胃カメラを実施したところ、食道と胃の境界部に、食道の粘膜が全体に腫れ上がり、食道の中を狭くしている部位を発見。同時に食べ物の一部も胃に流れることなく、詰まっていました。食道の粘膜が腫れているところより粘膜の一部を採取し、顕微鏡の検査を依頼。約2週間後検査結果が出て、食道癌の診断となりました。御本人と御家族に結果をお伝えしたところ、御本人も御家族も高齢であるため、これ以上の精密検査や手術、抗癌剤、放射線治療は希望されず、残された時間を自宅療養で御家族と過ごしたいという希望がありました。その為引き続き当院の訪問診療にて、食事のとり方などの指導を訪問看護師と共に行ったり、痛みや発熱などがあった際の対症療法などを行い、在宅緩和ケアを行っていきました。 この症例のように、在宅療養をされている方でも、全身状態や体力的に可能であれば、介護タクシーなどを利用することで、病院やクリニックで胃カメラを受けることもでき、悪い結果であったとしても原因がわかることにより、その後の自宅療養継続の一助となることもあると思われます。

