今回の仮想患者様Jさんは75歳女性の方で、約10年前から糖尿病や高血圧、脂質異常症などで、近くのクリニックに一か月に一回程度、きちんとお一人で通院されていた方です。処方された内服薬もきちんとご自身で管理され、ほとんど飲み忘れなどもありませんでした。ところが1〜2年前より、病院に再診する予定の日までに内服薬が足りなくなったり、逆に余っていたりするようになりました。またその頃から、通帳などをしまい忘れたり置き忘れたりもするようになり、同じ服装をしていることが多くなってきました。約1年前からは、季節や状況にあった服装が選べなくなり、買い物に行っても必要なものを必要なだけ買うことができず、料理もうまくできなくなりました。またその頃からイライラすることが増え、笑顔も減るようになってきました。ここ最近では、お風呂に入るのを嫌がるようになり、トイレが間に合わなくなったり、病院に行くのも嫌がるようになりました。そのため御家族が通院中のクリニックの医師に通院が困難となったため相談したところ、当院に訪問診療の依頼があり、訪問診療を開始しました。 この症例で考えられるのは進行性の認知症で、その中でも特に数が多いアルツハイマー型認知症が最も疑われます。そのため御家族に、まず次のようにご説明をしました。「アルツハイマー型認知症というのは、緩やかに進行する病気です。現時点では根本的に治療して元の状態に戻すことは困難ですが、病気の進行をできるだけ遅らせて、本人が少しでも長くその人らしく暮らせるように支えること、そして家族の介護負担を軽減することが治療の中心となります。」その上で、まず病気の進行を遅らせる薬の処方を開始。併せて糖尿病、高血圧、脂質異常症の薬もご本人が飲みやすいように薬の数をなるべく減らし、院外薬局に朝昼夕で薬を袋にまとめて飲みやすくする一包化を依頼。また介護保険をお持ちでなかったため介護保険の申請を行い、デイサービスやショートステイなどを利用できるようにしました。デイサービスでは、家族以外の人たちとレクレーションなどで交流することで脳の活性化を促し、認知症の進行を遅らせる効果があります。また自宅で入浴が困難な場合には、デイサービスで入浴もしてもらえるため、心と体のリフレッシュにもつながると考えられます。またショートステイは、御家族などが仕事や旅行などで不在となる時に数日間、患者様を預かってもらえ、御家族の介護疲れのサポートにもつながります。 (1月号に続く)

